二毛作(にもうさく)とは、同一の耕地や圃場空間を用いて一年のうちに二回、異なる作物を作期(さっき)を分けて順に栽培し、それぞれを収穫する栽培手法です。日本では古くから水稲と麦類の組み合わせを中心に発展してきました。一般に、先に栽培される作物を表作(おもてさく)、その収穫後に続けて栽培される作物を裏作(うらさく)と呼びます。
この仕組みにより、農地や施設を休ませる期間を最小限に抑え、年間を通じた生産量の最大化が可能となります。特に筑紫平野や九州地方、中国地方、関東平野の一部など、生育期間を確保しやすい地域で多く見られます。
歴史的には鎌倉時代から室町時代にかけて普及が進み、食料確保や年貢生産の安定を支える重要な農法でしたが、近年では施設園芸の普及や作期制御技術の進展により、作物構成や栽培暦を柔軟に組み替える現代的な栽培体系として再評価されています。
なお、同意語としては「二期作(にきさく)」や「ダブルクロップ(Double Crop:ダブルクロップ)」などが用いられます。
二毛作の概要
二毛作は、年間の気象条件を基本としつつ、作期を意識して作付けスケジュールを組み立てる栽培手法です。伝統的な例としては、夏期にコメ(穀物類)を栽培し、収穫後の水田を利用して冬期にコムギ(穀物類)やオオムギ(穀物類)を栽培する体系が挙げられます。一方、地域や栽培環境によっては、裏作としてエンドウやソラマメなどの豆類、ホウレンソウなどの野菜類が選択されることもあります。
単に作物を二回作付することではなく、前作と後作の生育期間、養分吸収特性、水分要求性の違いを踏まえ、圃場条件や施設環境に応じた合理的な作物組み合わせを行う点にあります。
二毛作の詳細説明
二毛作の成立には、作物の生育特性と作期を踏まえた明確な作付け計画が不可欠です。伝統的な水田二毛作では、表作である水稲が高温期に生育し多量の水を必要とする一方、裏作の麦類は比較的低温でも生育し、過湿を嫌う性質があります。そのため、水稲収穫後には速やかな排水と圃場条件の切り替えが求められます。
一方、畑作や施設園芸における二毛作では、水分条件だけでなく、生育期間の長短、養分吸収特性、作業動線を含めた圃場利用計画が重要となります。また、二毛作は輪作と混同されがちですが、輪作が複数年にわたって作物を交替させる体系であるのに対し、二毛作は一年内で完結する点が明確な違いです。
近年では農機具の高性能化や施設環境の整備により、耕起・播種・収穫といった作業を短期間で集中的に行うことが可能となり、二毛作の実施ハードルは低下しています。ただし、作業時期が重なりやすいことから、労働力の確保や作業計画の最適化には依然として注意が必要です。
二毛作と二期作の違いについて
二毛作(にもうさく)とは、同じ土地で1年のうちに異なる作物を作期を分けて順に栽培・収穫する栽培体系を指します。
一方、二期作(にきさく)は、1年を二つの作期に区分して作付けを行う考え方を表す用語で、実際には二毛作とほぼ同義として用いられることが一般的です。
いずれも土地利用効率や収穫機会の向上を目的とした栽培方法であり、地域の気候条件や作物特性に応じて体系が選択されます。
二毛作の役割とメリット
- 農地利用効率の向上
一年の中で作期を分けて複数作物を栽培することで、農地や施設を遊休させる期間を減らし、土地生産性や施設稼働率を高めます。 - 収益構造の安定化
作物や出荷時期を分散することで、市場価格の変動や気象条件による影響を緩和し、農業経営の安定に寄与します。 - 地域農業の維持と継続性向上
農地の遊休化を防ぎ、地域内での作付け継続や雇用確保につながることで、地域農業基盤の維持に貢献します。
二毛作の課題と対策
- 作業負担と労働ピークの集中
一年に二度の播種・定植・収穫作業が発生するため、作業時期が重なりやすく、労働負担が集中します。
対策:作期の異なる品種選定や作業工程の分散、農機具や施設設備の活用により、作業時間の短縮と労働ピークの平準化を図ります。 - 水分・環境管理の複雑化
水田作物と畑作物、あるいは施設栽培では、水分条件や環境制御の考え方が大きく異なります。
対策:圃場条件や施設環境に応じて、排水対策や適切な灌水設計を行い、作物ごとの生育特性に合わせた管理を徹底します。 - 作物組み合わせ・作期設定の失敗
生育期間が重なった場合、次作の播種や定植が遅れ、収量や品質の低下につながる恐れがあります。
対策:地域の気象条件や過去の作付け実績を踏まえ、早生品種や生育期間の短い作物を選定し、無理のない作付け計画を立てます。
余談:「毛」の語源について
「二毛作」の「毛」という字については、作物の収穫回数や生育の区切りを数えるために用いられてきた、農業用語としての慣用表現と考えられています。
一般に、「毛」は植物が芽を出し、生育を始める初期段階を示す様子を表す漢字であり、作物が一度生育し収穫に至る一連の過程を一つの「毛」と捉える考え方があります。
このため、「二毛作」とは、一年のうちに作物の生育・収穫のサイクルを二回繰り返す栽培体系を意味する言葉として用いられてきました。
なお、「毛」の語源については諸説あり、中国古代の農業用語や暦法との関連を指摘する解釈もありますが、特定の文献に基づく明確な定義が確立されているわけではありません。そのため、現在では「作物の生育・収穫の一区切りを数える表現」として理解されるのが一般的です。
参照・後述
- 農林水産省:「(I)水田作(基本方針内)」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/kihon_sisin/sisin2-1.html
→ 「関東以西の米麦二毛作が可能な地域」における水田の高度利用(裏作麦の導入、団地化・汎用化、新技術導入等)に言及があります。 - 農林水産省:「水稲の技術情報のページ」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/gijutsuhasshin/techinfo/suitou.html
→ 「飼料用稲麦二毛作」に関する技術(例:作目切替を迅速化する方法、立毛間播種による作業競合回避など)が整理されています。 - 農研機構(NARO):「ダイレクト収穫体系による飼料用稲麦二毛作技術マニュアル」PDF資料
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/direct2013.pdf
→ 稲麦二毛作体系における作目切替の要点(耕起・砕土体系、圃場条件、施肥設計など)を技術マニュアルとして具体化しています。 - 農研機構(NARO)東北農業研究センター:「農地の高度利用のための立毛間播種技術」
https://www.naro.go.jp/laboratory/tarc/contents/ritsumoukan/index.html
→ 水稲・大豆などの立毛間に麦等を播種する技術類型(散播方式・条播方式)を整理し、二毛作・間作の成立条件(機械化の前提など)にも触れています。 - 農林水産省:「農林業センサス等に用いる用語の解説」PDF資料
https://www.maff.go.jp/j/study/census/2015/1/pdf/sankou5.pdf
→ 「二毛作した田」の定義(“水稲を作った田のうち、二毛作(裏作)をした田”)が公的統計用語として明記されています。







