農業を通じ、食や命を実践的に学べる宇都宮大学農学部附属農場
宇都宮大学では、大正11(1922)年10月、宇都宮高等農林学校の創設に伴い、校内に実験農場を設置。これが、現在の農学部附属農場の始まりです。
当初は専門領域ごとに栃木県内のあちこちに設置された農場ですが、今日では1箇所に統合され、東京ディズニーランドとディズニーシーを合わせた大きさに匹敵する広さ(約101 ha)になりました。
附属農場は畜産・園芸・作物・農業機械分野の実習フィールドとなっており、宇都宮大学農学部の学生は全員、附属農場での実習を行っています。
附属農場の地図(ホームページより)
「今の附属農場は、農学部の学生だけのものではありません」と長尾教授は語ります。
附属農場は、2010年度より全国の大学農場に先駆け、「教育関係共同利用拠点」に認定。農業を通じて食・命を実践的に勉強していく施設として活動の威幅を広げました。
現在では、農学部の学生だけでなく、他大学の看護学部や栄養学部、環境学部、工学部などのフィールド実習や、共同研究を目的とした、さまざまな分野の学生が活動しています。その数は、令和5年度で800人にものぼります。
先生は農場長・畜産部門主任としてマネジメントをご担当されています。水稲・園芸・農業機械・畜産の4つの専門分野がある農場内で、畜産は他大学の学生、教員にニーズが高く、いろいろな学生を受け入れ、直接動物とふれあう実習を企画運営し、理論を実践的に活用する役割を担っていらっしゃいます。
また、先生のご専門の生殖科学分野では、最近は、動物の生殖学分野の研究がヒトの不妊治療にも応用されているとのこと。研究結果を実フィールドに展開する時、農場でしかできない実証的な研究を現場の研究者や学生とともに行っているとお話しくださいました。
なぜ、STXハウスを導入したのか
今回導入されたSTXハウス
附属農場でSTXハウスを導入したのは、2023年9月のことです。
今回、STXハウスを導入した経緯についてお伺いしました。
問:STXハウスは、どのような目的でお使いになっていらっしゃいますか?
長尾教授:STXハウスでは、牛の飼料の一つである乾草をストックしています。牛の飼料は、大きく分けると2種類あります。
まずは、「粗飼料」。粗飼料には生草と乾草、それから牧草を乳酸発酵させたサイレージがあります。もう一つは、とうもろこしや大豆、麦やふすまなどを用いた「濃厚飼料」です。
当農場では、乾草を10数キロの塊にして保管しているのですが、その乾草置き場、ストックする場所としてSTXハウスを利用しています。
問:どのようなところでSTXハウスをお知りになりましたか?
長尾教授:元々当農場では、大和鋼管様からビニールハウスを試験的に提供していただいており、農場内でどういう活用ができるかを、模索してきました。
水稲の育苗ハウスとして使ったところ、非常に使い勝手がよいと職員から好評だったのです。また、水稲関係の資材を保管するストックヤードとしても使ったところ、こちらも好評だったことから、今回乾草をストックする場所として候補に挙がりました。
問:なぜ、乾草のストック場所を探さなければならなかったのでしょう?
長尾教授:2023年2月に、それまでの動物舎と教育研究棟を統合し、新牛舎・管理棟としてリニューアルしましたが、その過程で乾草の保管場所をたくさん壊さなければならなくなってしまいました。
乾草は牛にとっての主食です。圧縮してかなりコンパクトにまとまってはいるのですが、牛の1年分の食事に当たりますので、たくさんの量が必要です。それらを効率よく収納できて、必要な時にスムーズに出し入れできる倉庫の役割ができる建物を探し、さまざまな資材メーカーさんに相談しました。
結果として、我々が求めているニーズにもっとも合致したのがSTXハウスだったのです。
強くて丈夫、短納期で安い 求める機能にぴったりなSTXハウス
乾草は、サイレージのように発酵を必要としないため、ロールベールサイレージのようにラップにくるむことなく、保管します。乾草は長期間の保存に耐えられるよう、草の水分を抜いていますが、雨や湿気に当たってしまうとカビの原因となってしまうため、しっかりと雨よけできることが重要です。
また、紫外線をカットするのも欠かせません。
乾草は屋外の圃場で乾かしているうちに、牛に必要な栄養成分の一部が紫外線で分解されてしまい、生草に比べると圧倒的に少なくなってしまうのだそうです。乾草の中の貴重な成分が、保管している間にさらに変質してしまうのは避けたいのだそう。
側面のPOフィルムを巻き上げることができ、湿度対策になる
また、北海道や東北ほどではありませんが、附属農場がある栃木県真岡市でも、年に数回は積雪が記録されます。また、栃木は風が強い地域。「今年はそれほどでもない」と職員の方はおっしゃいますが、雪や風でハウスが倒れてしまうことはあってはならないことです。
こうした点から、今回、附属農場では、3つの選択肢から検討しました。
- 屋根付き倉庫
- テントハウス
- STXハウス
これまでに述べた点も含め、以下の項目を比較した結果、附属農場ではSTXハウスを採用した、と長尾教授は説明します。
項目 | 満足度 | STXハウスのよかった点 | |
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設置コスト | ◎ | STXハウスは、倉庫はもちろん、テントハウスに比べ圧倒的に安価 | |
性能 | 柱 | ○ | ハイテンパイプのSTXは一般鋼管に比べ強度が高い。今回の目的に十分適している。構造上も問題なし |
遮光 | ◎ | POフィルムで紫外線99%カットでき、屋根付き倉庫と同レベルで乾草を問題なく保管できる | |
風 | ○ | 筋交いパイプが入っており、強風にも安定 | |
湿度 | ○ | サイドを巻き上げて換気することで回避可能 | |
強度 | ◎ | 説明上でも問題ない。一般的なビニールハウスのように、部品が取れてしまうようなアクシデントもない 見た目も構造上もしっかりしており、基礎工事をした倉庫と同等の強度が保てている |
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乾草の出し入れ | ◎ | 高さがないので、大型の機械を使わなくても乾草が出し入れしやすく、作業性が高い | |
乾草の出し入れ | ◎ | 工期が圧倒的に短い | |
メンテナンスコスト | ◎ | 倉庫やテントハウスに比べて、遜色ない |
STXハウスは「メンテナンスや強度、
容積をトータルで考えると、投資した以上のものが得られた」
今回は特に予算と工期の制約が大きく、工期が長くコストも大幅にかかる倉庫は、学内でも難色を示されることが予想されました。
なぜ、倉庫には工期やコストがかかるのか。それは、倉庫とビニールハウスの建築基準の違いに原因があります。
倉庫とビニールハウスの工法の大きな違いは、「基礎工事の有無」です。
倉庫の場合、基礎工事が必要ですが、STXハウスは「基礎工事を伴わずに、基礎工事をした倉庫と同じような頑丈な作りが実現できている」と長尾教授は語ります。
STXハウスは、いわゆる建築基準法でいう「建物」に該当しないのに、きちっとした強度が出せる。しかも、倉庫の1/2~1/3の予算で済むこと、発注後1か月以内で完成可能という、大和鋼管様からの提案内容に対し、「(STXハウスの見積りや工期の提案を見て)即決できた」と、長尾教授は満足そうにおっしゃいます。
問:驚くほどの短納期ですが、設置に当たってトラブルなどはなかったのでしょうか?
大和鋼管様:実際の設置作業は業者様に依頼しましたが、土日を含め3日くらいで施工していただきました。引き渡し前の検査で、附属農場様から「アンカーを埋めて欲しい」と微修正をいただき、その作業は半日ほどでしたが、附属農場様からも「とてもスムーズな設置でした」とご評価いただきました。
問:パイプハウスは、合うサイズがないなどで設置に時間がかかることもあると聞きますが、そんなに短納期で納入できるものなのでしょうか?
大和鋼管様:元々持っていた規格が、附属農場様のニーズにうまく一致したのが幸いでした。あらかじめ、積雪50センチ、風速50メートルの強度が確認できていたのが大きいと思います。もっと大きなサイズのハウスを求められたなら、強度の確認が必要になるかもしれません。
今回導入したSTXハウスの大きさは、横幅7.2m、奥行き22m、高さが3.8m、肩高が1.8mというサイズです。
STXハウスは、大和鋼管様の従来材(STK400)に比べ、2倍の強度を持つ高抗張力鋼管「STX」を使ったパイプハウスです。
STXは、引っ張りや曲げに対する強さはもちろんのこと、風や雪に対するたわみも小さく、「しなやかで強い」ため、壊れにくいハウスと言えます。
農業用ビニールハウスにおける「たわみ」(大和鋼管様Webサイトより)
実際に曲がり具合をテストした動画はこちらになります。
STX(780N)_製品案内_ハイテンパイプ_Short Version
用途を考え、必要十分な選択を
最後に長尾教授は、資材メーカーや農業者に対し、一つの疑問を呈しました。
それは、法律で求められた基準や見た目にとらわれて、本来の用途を見失っていないか、という点です。
今回附属農場では、STXハウスを導入したことで、品質が高いのにコストが安く、短納期である、という、QCD(品質・コスト・デリバリー)を満足させる選択をすることができたと語ります。
しかし、今回STXハウスに出会ったことで長尾教授は、一般的な農業用の倉庫などが、かえってオーバースペックになっている恐れはないだろうか、と首を傾げます。
もちろん、メーカー側が、合理性を持ってさまざまな機材を設計していることは間違いありません。しかし、今回附属農場では、「機械や収穫物を貯蔵するような高機能な倉庫」でなく「シンプルに乾草を保管できる場所」という目的のもとに利用シーンを考えた結果、倉庫以外の選択肢として、ビニールハウスやSTXハウスという選択肢を見つけることができました。
附属農場の皆さんは、一時は自分たちでビニールハウスを建てることまで考えられたそうです。しかし、乾草を保管するという本来の目的に必要な機能は何かを検討し、倉庫も含め、メリットとデメリットを比較した結果、誰もが納得する選択ができたと、力強くうなずきます。
マーケティングの大家セオドア・レビットは、かつて「ドリルを売るには穴を売れ」という言葉を残しました。
今回の長尾教授のお話から、商品を選ぶ農業者も本当に必要なものを考えて検討することで、価格だけでなく、自分に合った、ちょうどよい商品やサービスを選ぶことができるだけでなく、より大きな満足も得られるということを感じることができました。
法人情報
学校名 | 宇都宮大学農学部附属農場 |
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住所 | 〒321-4415 栃木県真岡市下籠谷 443 Googleマップ |
TEL | 0285-84-2424(代表) |
URL | http://agri.mine.utsunomiya-u.ac.jp/hpj/deptj/farm |
社名 | 大和鋼管工業株式会社 |
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住所 | 〒329-1411 栃木県さくら市鷲宿4530-1 Googleマップ |
TEL | 028-686-3581 |
URL | https://www.daiwast.co.jp |