生産者取材 Interview

「植物の力を引き出し、効率よい経営を」

株式会社カンジュクファーム

代表取締役
生駒直之さん

カンジュクファームは、フルーツ王国やまなしの魅力をグッと濃縮した
おいしいカンパニーです。
さくらんぼ、桃、さくらんぼ、キウイ、すもも、あんぽ柿など山梨県の特上特産フルーツをご提供いたします。

今回は山梨県南アルプス市で果樹栽培を営む、株式会社カンジュクファームの代表取締役、生駒直之さんにお話を伺いました。
カンジュクファームは、桃を中心に 9ha の面積を持つ生産法人です。スタッフは生駒さんを中心に 5 名。平均年齢 29.8 歳というとても若いメンバーでこの面積を運営するためには、どんな取り組みをされているでしょうか。

カンジュクファームの成り立ち

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生駒さんは、農業を志して山梨県に移住、野菜の生産法人に勤務した後、カンジュクファームの立ち上げに参画。当時果樹栽培の経験がなかった生駒さんは、市内で 24ha の果樹栽培を行う M.A.COrchard の飯野代表に師事、果樹栽培と経営のノウハウを学びながら 2016(平成 28)年、カンジュクファームの経営を本格的にスタートさせました。

山梨県は江戸時代から、生産される果物を「甲州八珍果」と呼ぶほどの産地で、今日では桃、ぶどう、すもものそれぞれで生産量、栽培面積ともに全国1位を誇る果樹王国です。

カンジュクファームがある山梨県南アルプス市は、南アルプス山麓に位置する美しい自然に囲まれた地域です。主峰北岳を頂点とした山あいの地域と、富士川が生み出した扇状地からなる東西に細長い形で、古くは稲作をはじめ、木綿や葉たばこ、桑などが栽培されていたといいます。

南アルプス市の地域では、扇状地の水はけのよさに加え、夏の気温の高さと昼夜の寒暖差、加えて冬の厳しい寒さという盆地特有の内陸性気候を活かし、他の山梨県内の産地と同様に、昭和40年代後半から果樹栽培の拡大が一気に進みました。現在ではさくらんぼ、桃、すもも、ぶどう、柿(あんぽ柿に加工)、キウイフルーツなどが作られています。

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カンジュクファームの経営
樹と地力、個性を活かした「無理のない効率化」

山梨県内の桃、ぶどうの最大の産地である笛吹市や甲州市では、桃やぶどうを専業で営む農家が多い傾向が見られますが、南アルプス市地域では、複数の果物を栽培することで、年間の出荷時期を伸ばす経営スタイルが見られます。

地域の農地を借り受けながら成長を続けるカンジュクファームでも、獣害のリスクが高い山あいの畑にはあんぽ柿を作る平核無(ひらたねなし)やキウイフルーツ、平野部では桃やぶどうを栽培することで、年間8か月の間、出荷できる体制を生み出しています。

なお、カンジュクファームのおおよその出荷時期は以下の通りです。

6月中旬、6月下旬〜8月お盆まで
ぶどう 巨峰は8月お盆〜シャインマスカット9月中下旬
あんぽ柿 10月中旬〜12月
キウイ 12月上旬〜2月末

畑の面積は桃が多く、全体で5ha。そのうち2.5haはまだ1〜3年生の苗木で、来年から成木レベルの収穫量が期待できるのだそうです。

作業効率をアップさせ、8割の収量でも全体の生産量でカバー

カンジュクファームの大きな特徴は、なんといってもスタッフの年齢が平均年齢29.8歳と若いこと、そして全員が非農家出身ということです。栽培技術の修得に時間がかかることや資金面で新規就農のハードルが高いといわれる果樹で、9haという大面積を展開する理由について生駒さんに伺いました。

「自分たちも新規就農者で、農地をお預かりしている都合上、畑が点々としています。軽トラックで移動するだけで30分くらいかかり、はじめはなかなかまとまりませんでした。県内でも新規就農者が多いのは峡東(甲州市、笛吹市、山梨市など:ぶどうや桃)や北杜(八ヶ岳南麓エリア:野菜栽培など)。南アルプスは新規就農者が少ないんです。南アルプスは高齢化が進んでいて、離農される方が増えていますので、新規就農者でも面積を広げやすい環境ではあると思います。」

とはいえ、無尽蔵に広げては管理の目が行き届かなくなります。そこで、カンジュクファームでは、「樹園地を点在させないこと」を目指し、エリア単位で徐々に引き受ける園地を増やしています。地元出身のスタッフが農地拡大を担当し、お友だちのお父さんや親戚、知人にクチコミで広げていっているのだそうです。

もちろん、ただ広げるだけではありません。農地を預かり、大切に使う姿勢は、生駒さんが前職の農業法人で培ったもの。「畑を貸すのは娘を嫁にやるようなものだ」と繰り返し教えられた経験が活きていると微笑みます。農業への熱意と地元の関係性を大切にする姿勢が、地元からの信頼につながっているのでしょう。

しかし、このような大規模で経営を行っているのは、地元ではごくわずか。しかも少人数での運営です。生駒さんは、「無理をしない範囲での効率化」を経営のポイントに掲げます。

例えば樹高。カンジュクファームでは、桃の木の高さを、従来の3分の2程度の低さに抑えています。

「脚立の乗り降りを減らすことで効率化が図れます」と生駒さんはきっぱりと言います。園地の面積が足りないと、樹高を高くして面積あたりの収量を増やす戦略を取りたくなります。ですが、背の高い脚立に乗り降りする必要があります。12尺(約3.6m)もある脚立は上り下りするのが大変などころか、危険を伴います。

「10aでたくさん収穫することを目指すよりも、8割の収量でも、小さい木で脚立に乗らないで済むように栽培しています」と生駒さん。じゅうぶんな栽培面積があるからこそ、全体的な収量と売上、作業工数のバランスを見て総合的な判断をしているそうです。

低木での栽培のメリットは、労働生産性の向上だけではありません。カンジュクファームでは、積極的に草生栽培を取り入れています。また、有機肥料を中心とした土づくりを行い、土壌微生物を大切にした環境を整えます。根が元気に健康でいられることで、木が本来の力を活かすことができるから、というのがその理由です。

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また、カンジュクファームでは、農薬の防除回数もできるだけ減らすため、すべての桃に袋がけを行います。これは、虫や鳥、病気から桃を守る物理的防御となるだけでなく、「働く人の健康も守れる」というメリットもあります。

このようにカンジュクファームでは、植物と人の健康を守りつつ、コストを抑えることを重視する、堅実な経営を展開しています。

資材との関わり 導入するシナリオや得られるベネフィットを考える習慣づけ

さまざまな果物を栽培するカンジュクファームでは、資材や農機具をどのような視点で選んでいるのでしょう。資材を選ぶ基準と情報源について、お聞きしました。

選ぶ基準 「人が何度もやる作業は疲れない、ストレスにならないほうがいい」

生駒さんの農業資材を選ぶ基準はごくシンプルで、「店舗などで実物が確認できるもの」「用途に合わせた実用性」を重視、その中で「価格」で選ぶというのが基本だそう。

例えば収穫した果物を詰める段ボールは、大切な商品である果物がきちんと保護されることを重視しています。「うちはまだ贈答用商品を扱っていないので」と、店頭に並んでいる段ボールの中から、丈夫なものを選んでいます。

購入先の多くは近所の店舗やJA。「近い店舗だと買いに行きやすい。自社で在庫をたくさん持たなくていいのでありがたい。」と笑います。

桃の収穫前に敷き、太陽光を反射させて実の色づきをよくする反射シート「楽らくタイベック」は、少し価格が上がりますが「一人で(シートを)敷くことができるので」と導入を進めているのだそう。

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タイベックマルチは、光を反射させますが熱は反射させにくくなるため、暑くならず、果物にも作業する人にも優しく、作業性を大きく向上させる点も魅力的だそうです。

繰り返し使う道具類は、メンテナンス性を重視しています。例えばはさみは、毎シーズン刃だけ交換できるものを選択し、切れ味を毎年維持します。

「正直言って、更新しないものに対してはなかなか意識が上がらないんです」と苦笑する生駒さんが最近買い換えたのは、誘引用のテープナーだそうです。これまでのものに比べ価格は2倍以上になったものの、作業性がとても良くなったと好評だそうです。

情報源「他の農家のSNS写真を拡大してチェックする若手も」

生駒さん自身の資材を検討する際の情報源は、「近所の生産者」や「地元の資材販売店」「JA」とシンプルです。とりわけ、地元の資材販売店さんが強力なパートナーになってくれているようです。

地元の販売店さんは「『こういう時はどうしたらいいと思いますか?』と問いかけると、具体的な事例から一緒にソリューションを考えてくれます。一緒に畑づくりをしてもらっています」と強い信頼を寄せている生駒さん。

近所の生産者に対しては、その人の得意そうな範囲をあらかじめ押さえておき、その範囲を中心に意見を求めるようにしているとのことです。

生駒さん自身は、雑誌やインターネットを常にチェックするというタイプではなく、あくまでも「目的が決まった時に検索する程度」とのこと。生産者の紹介記事や発信にあまり重きを置かないのは、「それぞれの環境によって、合う合わないがあるから」ときっぱりと答えます。

スタッフの中には、SNSで気になる生産者をフォローし、画像に写った資材などを拡大しながら、便利そうなアイテムをチェックするのが得意な人もいるのだとか。若手スタッフのそうした情報収集は「アイデアのヒントになる」と生駒さんは一目置くものの、「自分たちが使うメリットは何だろう?」と、以下のようなプロセスで徹底的に考える習慣をつけるようにしていると言います。

カンジュクファームでは、その器具を導入することで得られるベネフィットは何かを、具体的なシナリオで考えるようにしているのだそうです。会社では「誰が来てもできるしくみづくりを果樹栽培で実現する」ことを目指しているため、

  • 作業が標準化できる
  • ミスなくできる
  • 体力や平衡感覚などの個人差を必要としない

ことが資材や道具選びの大きなポイントになります。 社内でこういった視点を日頃から意識合わせしていることが、資材購入にも影響している様子がうかがえます。

とはいえ、農業では日々新しい困りごとが起こるもの。気になる情報がラジオなどでチェックできた場合には、お試し品を取り寄せることもあるそうです。

農業資材メーカーへの期待

生駒さんに、資材メーカーに対するリクエストを伺ったところ、3つの提案をいただきました。

モノだけでなく、使う状況まで視野を広げた商品開発を

生駒さんが取り出したのは、桃を守るフルーツキャップです。収穫した桃を箱詰めする際に欠かせないフルーツキャップですが、基本的に100個くらいの単位で大きなビニール袋に詰められています。その大袋を作業台の上に置き、袋を開いて使っていくのですが、キャップが静電気などで舞ってしまい、作業台が散らかるのが悩みだそうです。

そこで、「フルーツキャップを一つずつ取り出せるようなホルダーがあったら」と生駒さん。キャップの品質はメーカーによって差があるわけではないとのこと。もし、セットとなるホルダーが売られていたら、少々高くてもそのメーカーのキャップを買い続けたいそうです。

農業資材の消耗品は、このようにモノを使う状況に配慮した商品が少ないそう。生育途中のぶどうにかける袋も、一般的にはひもで止めるタイプが多いのですが、「ホチキスのように止められるものがあったら作業性が向上すると思います」と生駒さん。

ぶどうに限らず、袋がけ作業は人手を必要としますが、地域で作業時期が重なるため、人手不足に陥ることも少なくありません。マンパワーや属人的な技術に頼らず、誰が来てもある程度戦力になれるような資材が増えるといいですね。

生駒さんは、消耗品レベルでたくさん使う資材のコストを抑えることも重要ですが、メーカーが使い方を工夫できれば差別化できるはずだと指摘します。なぜなら、人件費がいちばん高くつくからです。

山梨県の最低賃金は、2014(平成26)年には721円でしたが、2022(令和4)年10月には898円まで上がっています。技術にはお金を払えるが、誰でもできるレベルに高い賃金はできれば払いたくないというのが、数多くの農家の偽らざる気持ちでしょう。

「誰がやってもあまり変わらないことへの賃金は時間や作業量に応じて。人によって変化しないことを仕組みづくりや環境を共に創っていける仲間にこそ、価値を見いだし対価を支払いたい。」と生駒さんは言います。道具やしくみでカバーしていくことこそが品質向上にもつながるというのが、生駒さんの経験から得られた感覚なのです。

資材メーカーがもう少し農家に寄り添い、使い方まで含めたものづくりの発想をすれば、農業の可能性が一段と広がりそうです。

高額商品を短期レンタルで試してみたい

生駒さんにとって高額な商品を買う時は、特によいものを買いたい、という気持ちが強く働くということです。ですが、農業用の資材や機械は利用者や利用状況に合わせ、サイズや機能などを細かくカスタマイズしているものが多く、たとえ同じ地域で同じ品目を栽培していている他の人にとって使い勝手のよいものでも、自分に合うかどうかはわからないというのが、事前の商品選択を難しくさせています。

生駒さんは、近くの農家の方に実際に借りてみてまで使ってみるようにしている、と前置き、「購入前提とする、短期レンタルのような制度があればありがたい」と言います。

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「農業資材のクチコミサイトがあったら使いますか?」という編集部の質問に対しては、生駒さんは考え込みました。 クチコミで、栽培環境や経営状況をある程度客観的に判断できるほど詳しく書いてもらえるものだろうか、という疑問があるようです。「実力のある人の率直な意見は聞きたい」という気持ちはあるものの、先述のように、それが自分たちの環境に合うかどうかは別の問題なのです。

生駒さんは、クチコミより「使った結果のお礼として、使用感を記入するモニター方式はどうか」と提案します。やはり、使用評価は、状況をかなり詳しく把握してからでないと自分にも合うかどうかを正しく評価できない。投稿者の情報量や質のばらつきが大きくなりやすいクチコミより、アンケートやヒアリングなど回答内容の粒度を担保されたほうが導入検討の情報として使いやすい、と生駒さんは話しました。

メーカーと地域で共創する施設園芸団地

ビニールハウスなどの大型の資材についてお話を伺う中で、生駒さんから出てきたのが「産学官が連携したレンタルハウス地区」というコンセプトでした。現在、ビニールハウスはあんぽ柿の加工のみで使っているという生駒さん。「施設園芸もチャレンジしたいが、リスクが大きすぎる」のが理由です。

ビニールハウスは、この3〜4年で2倍以上の価格に跳ね上がっています。多くの場合、ビニールハウスを新設する際は融資や補助を受けるため、事業計画の作成がセットになります。農地や経験、資本の少ない新規参入者が取り組むリスクが大きすぎるそうです。

そこで、ビニールハウスを3年くらいサブスクリプション契約で試せたらどうかというのが生駒さんのアイデアです。もちろん、メーカーがすべて負担するにはリスクが大きいことでしょう。

そこで、行政が遊休農地を借り上げて基盤整備を行い、レンタルハウス地区のようにしてはどうか、と生駒さんは語ります。そのレンタルハウス地区では、入居する農家がメーカーの製品開発のテストユーザーとなり、農家の声を反映させながら製品開発を進めていったらどうか、と発想はさらに広がります。ハウスのメーカーだけでなく、資材や肥料、種苗会社などが加わってもよいでしょう。

大切なのは、農家が一方的に「学ぶ」のでなく、メーカーや行政とともに地域の農業を創ることだ、と生駒さんは言います。新規就農者にターゲットを絞り、地域の生産者からの第三者継承を行政がマッチングするといった方法で、しっかり地に足をつけて農業を続けていこうとする生産者とメーカー、行政がつながったら、農業が変わるのではないかと生駒さんは目を輝かせます。

「南アルプスは遊休農地や耕作放棄地が年々増えています。」と生駒さん。県内の他の産地に比べて新規就農者が少ないながら、果樹の大規模経営などのチャレンジができる可能性がある南アルプス市は、中部横断自動車道が開通し、静岡市周辺とのアクセスが格段に向上し、静岡県中西部のスーパーとの取り組みも広がってきました。さらに昨年からは、清水港からの輸出の取り組みも始まっています。

関東圏の出荷だけを見てきた地域で新たに生まれた需要を前に、こうした取り組みができたら…と生駒さんは将来を考えます。

農業での喜びや苦労

最後に、生駒さんに農業をやっていての喜びや苦労についてお伺いしました。

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取引先のスーパーの、新入社員研修の参加者のみなさんが畑に来て、実際に桃を食べてもらった時、関西方面からの仕入れの方が見に来られた時「こんなにおいしい桃を食べたことがない」という反応があったのを見た時には、苗から5年かけて育ててきた甲斐があったとつくづく感じたそうです。

一方、農業での苦労は、時間的投資をしても、すぐに成果が現れるものではないという点だと言います。苗木から育てた場合、5年経ってようやく収穫や品質という成果でしか現れない。今やっていることが植物にとって正しいことか、日々、検証が必要で難しい、でもその時間的投資がやりがいでもあるし、楽しい、と生駒さんは笑います。

果樹の盛んな地域で、新しい時代の農業を切り開こうとし、効率を重視しながらも、気負わず無理なく、自然体に取り組んでいる様子がうかがえました。若い力ですくすくと成長するカンジュクファームのこれからの発展に、目が離せません。

企業情報

社名 株式会社カンジュクファーム
住所 〒400-0221
山梨県南アルプス市在家塚1812-1 GoogleマップGoogleマップ
TEL 055-242-6780
URL https://kanjukufarm.com
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