霧のいけうちとは
いけうちは産業用スプレーノズルを開発しているメーカーです。いけうちが開発した製品はこれまで、エレクトロニクスや車輌、食品、公害防止なとあらゆる業界で利用されてきました。洗浄、冷却、塗布、散布、冷房、除菌など、現場の課題解決・環境改善においてスプレーノズルは大きな役割を果たしています。
そんないけうちが近年、施設園芸分野に注力するため設立したのがアグロ事業部です。アグロ事業部では新しい作物栽培方法の確立、作物の栽培環境最適化、病害虫対策、という3つの課解決に向けて独自の研究開発を行っています。
IKEUCHIPonicsとは
いけうちの製品についてアグロ事業部の彦坂さんにお伺いしました。
「当社では新しい栽培方法を確立するため、IKEUCHIPonicsという装置を開発しました。これはスプレーノズルを活用して養液を細かい霧状にし、植物の根を包み込むことで給液するという新しい考え方のエアロポニックシステムです。土やロックウールなどの培地を利用するのではなく、霧の空間に根がぶらさがる状態で栽培します。」
これまで農業界には散水ノズルや二酸化炭素噴射ノズル、ドリフト対策ノズル、細霧冷房やミストファンなどを提供していましたが栽培装置の自社開発は前例がありません。また千葉大学・神戸大学・JAXAとは共同研究を行っており、IKEUCHIPonicsは作物の根の研究という側面からも大きな期待を背負っています。
従来の水耕栽培との違い
「IKEUCHIPonicsは、次世代の水耕栽培とも言えるかもしれません。」と彦坂さんは話します。
水耕栽培には古い歴史があります。これまでの水耕栽培は、直接根を水につける、もしくはシャワーをかけるといった栽培でした。今までの栽培がシャワーだとしたら、IKEUCHIPonicsはミストサウナです。霧で根を包み込むため、水滴が葉や根にボタボタとつきません。また植物の側でも根の周りの霧から給水しようとして、細かな根毛を沢山発生させるといった変化が起きます。
「根は霧中に浮いており、培地や水たまりのない栽培システムなので、噴霧のON/OFFにより植物に必要な水分や養分の投与量をタイムラグなくほぼリアルタイムに変化させることができ、作物を意図的にストレスとノンストレスの状態を自在に一瞬で切り替えることが可能です。」
彦坂さんは、「これまでの水耕栽培で課題となっていた問題を解決できる」と次のように語ります。
「例えば、高糖度のトマトを育てる場合、極力水を与えない方法があります。もちろん、生育可能な水分量を下回ってしまうとトマトは枯れてしまいますが、IKEUCHIPonicsでは根の周囲の水分量を瞬時に変化させることができるため、極限まで水を切りつつ、生育上のリスクを抑えるような栽培も可能になります。
またIKEUCHIPonicsには噴霧コントロールを自動化するレシピを積んだ制御盤を利用しており、これにより従来からのノウハウを持ったトマト農家だけでなく、新規にトマト栽培に参入する企業でも一作目から高糖度トマトを作ることが可能になっています。
「私たちが開発した霧の技術はどの企業も真似できません。私たちが元々ノズルメーカーだからです。もし、他の企業がこの霧の技術を開発できたとしても、安定させることは難しいでしょう。もちろん、ノズルは商品として販売しているので、どんな技術なのかを想像することはできます。しかし私たちにはこれまでの多くの実績や経験があります。そのノウハウを活かせるのは、いけうちだけです。」
これまでの水耕栽培は、根は水没しているので窒息している状態です。他にも、水のシャワーやロックウールやフィルムを使った栽培もあり、それぞれいろいろな特徴があります。
「IKEUCHIPonicsとこれまでの水耕栽培には大きな違いあります。それは霧の粒子径です。特殊なノズルを利用して養液を平均粒子径約30μm以下の微細な霧状にして噴射・充満させることができます。」といいます。
「水耕栽培の中では一番後発にできた製品なので、どんなものが育てられるか、どんな特徴があるのか、デメリットはといった未踏の部分もあります。これをひとつひとつ詰めていきたいと考えています。」と彦坂さんはいいます。
IKEUCHIPonicsのこれまでとこれから
IKEUCHIPonicsを使った栽培に関しては、まだ実際の導入事例は少ないながら、農家や企業からの問い合わせが急増しているそうです。
「消耗品、廃棄物が発生しないことや、高糖度・高GABAのような付加価値の高い栽培が可能になることなど、時代のニーズが追いついてきたのだと思う。」と彦坂さんは語ります。
初めて製品を見た方に、その良さを伝えることは簡単ではないのだそう。もちろんトマト栽培をしている農家の方にも利用していただきたいのですが、どちらかといえば、これまで農業経験がない企業の方が参入しやすいと思っているそうです。
また一方で、開発にあたり苦労した点は、まったくの手探り状態からのスタートだったところだそうです。これまで霧を使って水耕栽培の装置を開発した実績や経験のある大学や企業はありません。
「どのような霧や粒子、または霧の量などに苦労しました。どのようなノズルを利用するか、どのような配置がいいかなどいろいろです。」
これまで利用されていた水耕栽培であれば、そこまで深く考えることはなかったと話します。IKEUCHIPonics開発まで15年かかり、ようやくこの形に落ち着いてから5年ほど経つのだそうです。
環境問題で注目されているSDGsや脱炭素にも取り組んでいる
冬は重油を使う頻度が高くなります。特に、ビニールハウスで作物を栽培する方たちにとって、重油などの使用にかかる費用高騰は大きな経営課題となっています。またSDGsや脱炭素の観点からも対策が求められます。
「製品に興味のある方は、栽培作物の品質だけでなく、いかに栽培コストを抑えるかについても注目されています。重油はとても費用がかかるため、いかにそのコストを削減、炭素をどれだけ減らすかということが大きな問題だと考えています。」と話します。
これまでのビニールハウス栽培では温室全体を温めていました。いくらよい作物が育てられても、コスト面だけでなく、環境面でも多くの課題を残します。そこでIKEUCHIPonicsは、根だけを温めることによって植物の状態を落とさず、重油または灯油の使用量を減らすことにチャレンジしているのだそうです。
根だけを温める技術は現在、千葉大と協力をしながら実験をしているのだそう。
現在、気候変動問題の被害を最小限に食い止めるために必要な脱炭素の問題が話題となっています。脱炭素とは、二酸化炭素の排出量をゼロにすることです。これからは環境問題にも力を入れていくことが必要です。環境省では2021年4月に2030年度において温室効果ガスを46%削減を目指すこと、さらに50%に向けて挑戦すると表明しています。
(参照:環境省)
「私たちも、もちろん脱炭素問題に取り組んでいきます。施設園芸に取り組んでいる方は、その問題にどのように切り込んでいくかが悩ましいと思います。」と環境問題にも強い思いがあると彦坂さんは語ります。
これまでは、重油を使う燃焼式暖房機をヒートポンプにするくらいしかなかったのだそう。
「私たちは、IKEUCHIPonicsのむき出しになった根を電気的に温める局所加湿を行うことで、低温によるダメージを抑えながら作物を育てることができます。土や水を使った栽培では根までに届くのに時間がかかりますが、IKEUCHIPonicsなら直接根を温めたり、加湿したりできるため非常に効率がよいと考えています。」
いけうちでは空間全体の暖房設定温度を5度落として、重油の使用量を半減しつつ収量を維持したという結果も出ているのだそうです。千葉大の実証実験ではヒートポンプと組み合わせることによって、重油を一切使わずに収穫量を落とさずに栽培に成功しました。
「今、私たちが取り組んでいる「脱炭素」は大きなテーマだと思います。これからも脱炭素問題については大きな柱としていきたいと考えています。」と強い思いで語ります。
作物の生産だけでなく、脱炭素などの環境問題にも強い思いのあるいけうちの製品はこれからも多くの方に注目されるでしょう。
いけうちで注目している製品とは
いけうちでは、IKEUCHIPonicsだけでなく、冷房・加湿・薬液散布自動化システムのCoolPesconという製品も製造しています。新しいシステムであらたな試みをはじめるのもひとつの方法です。施設園芸のさまざまな課題解決に活用してみてはいかがでしょうか。
企業情報
社名 | 株式会社いけうち |
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住所 | 〒550-0011 日本 大阪府大阪市西区阿波座1-15-15第一協業ビル |
お問い合わせ先 | mist@kirinoikeuchi.co.jp |
URL | https://www.dry-fog.com/jp/ |